電気自動車(EV)をテコに「自動車大国」の道を駆け足で登ってきた
中国でEVの弱点が露呈し、EV化の流れに逆風が吹き始めた。
世界一のEVメーカーとなったBYDを擁し、昨年1年間に輸出した
自動車の総台数でも、日本を抜いて世界1位になることが確実な中国で、
なぜEVを見直す動きが目立ち始めたのか。
EVの弱点が発覚したきっかけは昨年12月中旬、1週間にわたって
中国東北部一帯を襲った大寒波と大雪だった。
中国東北部は黒竜江省、吉林省、遼寧省からなり、緯度が岩手県に近い
首都・北京よりはるか北に位置していため冬は寒いことで知られている。
12月中旬、東北部から内モンゴル、中国最西端に位置する
ウイグル自治区を襲った寒波は尋常でなかった。
黒竜江省のハルビン、吉林省の長春市、遼寧省瀋陽市、ウイグル自治区の
ウルムチは軒並み最低気温が氷点下40度以下に。
玄関を出たら目の前は高さ2メートルを超える雪の壁だったというから災害級だ。
この大寒波と豪雪こそ、中国のEVに大きな影響をもたらしたのだ。
中国は習近平政府が「大気汚染大国」の汚名をそそごうと、「脱炭素社会の構築」を
世界に先駆けて掲げ、電気自動車の普及に力を入れたため、地方を含めた中国全土に
EVが浸透している。
ところが、今回の大寒波と豪雪が「電力の消費を加速させる」「航続距離が
ガクンと落ちる」などと電気自動車の弱点をさらけ出したのだ。
一般的に中国の電気自動車は1回の充電で400~500㎞の走行が可能とされているが、
中国東北部の寒冷地では性能が落ち、暖房を節約しても半分の200~250㎞しか走れず、
スピードを出すとさらに航続距離は短くなる。
しかも、酷寒のために電気駆動システムが作動しないトラブルも多発したのだ。
例えば、スマートフォンや指紋認証で始動させるスマートキーが作動せず、
そのため路上に放置された車が目立ったという。
その結果、SNSには「EVの夢に騙された。次に購入するのはガソリン車だ」と
訴える投稿が増えている。
こうした中で注目されているのが、中国の正月である春節(2月10日)だ。
およそ8連休となり数億人がマイカーで1000㎞以上の道のりを里帰りのため大移動する。
そのため、EVのトラブルや不満が中国全土に伝播する可能性があるからだ。
これらが中国のEV政策にどんな影響を与えるのか、見守りたい。
(団勇人・ジャーナリスト)
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